JICSA 特定非営利活動法人 日本感染管理支援協会 英国感染管理研修ツアー報告 l 2014-10-13
   
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 2014年10月13日~15日 英国感染管理研修ツアー報告  

大野記念病院 感染管理対策室
感染管理認定看護師 永田眞美

<日程>
平成26年10月13日(月)~15日(水)
<場所>
グレートオーモンドストリート小児病院
ロンドン大学病院
<研修内容>
 ・抗菌薬の適正使用
 ・IV治療の伴う感染リスクの低減
 ・感染予防管理実践
 ・手術部位感染予防、尿路感染予防
 ・清掃実践に関する研究
 ・リンクナースプログラム:最大限の活用
 ・ハイセキュリティ感染症ユニットにおける感染管理
 ・コンピテンシーと説明責任
 ・病院訪問見学

   
<イギリスの抗菌薬の適正使用について>
近年の耐性菌の検出増加に伴い一般新聞紙面では、"人類はおしまいだ…"などの悲観的なテーマが掲載されている。しかし、抗菌薬の効果は進化し手術療法や化学療法、臓器移植も可能となるなど医療の進歩に寄与するなど多くのメリットがあることも事実である。行政からの指導では、"抗菌薬投与は控えめに"、"適正使用を"という程度の指導に留まっているらしい。  

イギリスでは、抗菌薬の全投与のうち約80%が開業医での投与だという。そのため行政は、特に市中の開業医向けの教育案内が出されるそうである。講師の病院では、ICTとは別の抗菌薬監査チームが医師、臨床検査医師、 感染制御薬剤師、情報技術者、疫学者らで編成され感染予防ディレクター 医師に報告するシステムがある。抗菌薬の感受性で問題となりそうな 感受性データはピックアップされ全データを返却しないなどの操作を加えることもあるらしい。微生物専門医師が操作しこれらのことで特にトラブルが起きたことはないとのこと。使用時は、アレルギーの有無、必要性、ガイドライン通りか、選定理由、病院全体の使用量、治癒状況の進捗などが評価され、治療効果のあったデータを使用医師にフィードバックされる。このようなPDCAサイクルが途中で中止されることにより治療結果が悪くなったという文献もあるとのこと。抗菌薬投与状況とクロストリジウムディフィシルの検出を比較すると顕著に減少していたという。

多大な時間と人件費を要してこれらを行う1番の目的は、患者への安全で適正な治療であり、品質改善の輪つまりPDCAサイクルの継続であると話された。
 
     
<ハイセキュリティ感染症ユニットにおける感染管理>  
ここでは、今世界的に注目されるエボラ出血熱患者の対応についてのお話を聞いた。日本からの研修参加者も最も関心の高いところである。エボラ疑い患者の来院時の対応について講義された。  
・過去24時間以内の38.0℃以上の発熱  
・蔓延国からの帰国者か。
という2点でスクリーニングをかけられる。
次にマラリアとの区別を行う。  
・動物との接触の有無(サル、コウモリ、その他すべての動物)  
・エボラ等疾患患者との接触の有無  
・粘膜・腸管等の出血症状の有無
これらの3点でアセスメントし、該当者はハイリスクと判断され特別な感染症病棟へ収容される。

マラリアとの鑑別診断がされるまでの間は、検体採取自体がハイリスク処置となるため次の検査には進まない。検体の運搬は手持ちで運搬し特別対応である意識を持たせることにある=厳重な取扱いの為である。過去に、このような事前連絡をしたとき、直ちに白衣を脱ぎ棄て逃げ帰ったスタッフがいたという。過去のSARS流行時の学習から、スタッフの感染は患者本人からではなく、個人防護具の着脱時の汚染による可能性が高く厳重な教育が必要である。  

エボラ出血熱患者の死亡時は、遺体は密閉し金属の棺に入れ溶接して密閉するとのこと。イギリスは日本のように火葬ではないため、金属の棺に溶接を行い、その後のテロ対策も考慮されているという。
 


勤務体制
・スタッフの事前の徹底トレーニング  
・1回の勤務は2時間 3セッション/日に限定、勤務後シャワー  
・厳重な個人防護具の着脱で2人体制  
・スタッフの健康管理モニタリング3週間等が組み込まれている。
病院の受け入れ態勢を整えるうえで、職員の安全確保を充分に検討して おくことは最も重要であると考える。
   
 
特に興味深く聞いた2点に絞って報告させていただきましたが、他にもさまざまな内容の講義の聴講や見学で多くを学ぶことができました。ここに報告しきれないですが、今後の活動に役立てていきたいと思います。 通訳の禹さん、EMIKOさんにわかりやすく通訳していただき、本当に良かったです。また、研修参加者の方々と情報交換でき、楽しく過ごせました。今後ネットワークをどんどん拡大して情報共有ができたらと思います。今回の研修参加者の皆様、そして土井先生、いろいろお世話になりありがとうございました。また、ぜひ次回参加できる機会を作りたいと思います。