JICSA 特定非営利活動法人 日本感染管理支援協会 英国感染管理研修ツアー報告 l 2011-9-5
   
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 2011年9月5日~7日 英国感染管理研修ツアー報告  


九州大学病院 検査部
感染制御認定微生物検査技師 清祐 麻紀子

今回、私は臨床検査技師として英国感染管理研修(2011年9月5~7日)に参加してきました。英国まで行き勉強したいと思うのは看護師さんばかりではありません。一緒に研修を受けた中には医師も臨床工学士もいらっしゃいました。 国内の研修会・勉強会は数多く参加していても、海外の研修がどのようなものか・・不安もありましたが、とても実りの多い研修会でした。

ロンドンでの3日間の研修では、各テーマに沿った実践の専門家の方の講義があり、感染管理に携わるスタッフならどのテーマも興味深く聞ける内容でした。さらに2施設の病棟ラウンドもあり、実際の医療現場に行き、現場の感染管理スタッフから聞くお話は何を聞いても新鮮でした。 もともと英国と日本では「感染管理に対する国の仕組み」が大変異なっており、それゆえに行う感染管理にも違いが表れてきます。詳細は省きますが、どちらがいい悪いという評価ではなく、英国の状況を知ることで、今我々が行っている感染管理の在り方について、改めて考えるきっかけを学べたと思っています。

感染管理を行う上で問題となることは英国でも同じですが、英国ではそれを「変えていこう」とする興味深い取り組みが積極的に行われていると感じました。簡単に例を挙げてみます。

   
感染管理にはまず、手洗い・・・
みんなが手を洗うように指導するにはどうしたらいいか?・・・日本なら、何をしますか?

⇒グレートオーモンド小児病院のユニットの入口では床に手指衛生のイラストと人感センサーで手の衛生をアナウンスする仕組みがありました。 ⇒各病院の入り口や廊下には感染管理に関するポスターや掲示物も多く、高いことをすぐに感じました。
⇒実際に、病院の入り口すぐに速乾式手洗い装置がありましたが、しばらく観察していると、通る患者家族や病院スタッフ、病院のコーヒースタンドの店員さんも当たり前のように使用して出入りしていました。手洗いが習慣になっているんだな・・・と感じました。
 
手洗いの5モーメントが基本!だけど、徹底できない現場状況もある・・・
⇒ロンドン大学ICUではベット周囲の床に黄色のテープをはり、「このラインを超えるときは手洗い!」とし、5モーメントを守れなくても、このようなテープルールを守ることでOK!のような現場に沿った指導もしていました。とても現実的だと感じました。
このように、感染管理の方法はすべての施設で同じやり方なのではなく、基本的な理解があれば、あとは現場のスタッフが日常使えるような仕組みにすることで、毎日、無理なく、継続して行えるものにすることが重要だと改めて感じました。
 
 
ただ、仕組があってもハード面で限界があるのが日本の現状です。日本でも問題となる「パソコンのキーボードの清掃」などの悩み。ロンドン大学では一定時間になるとランプがつき、清掃を促す「清掃できるキーボード」が使用されていました。ディスポのカーテンも使用していました。日本でも本気で感染管理を取り組めというのならこれくらいハード面でのサポートがあってもいいのに!英国の仕組みをうらやましく思いました。

また、感染管理につきものの問題といえば、「感染管理に協力してくれない人はどう扱えばいいか?」といった悩み。本研修の中では、改善を行うときに何か必要か?というトランスフォーメーションという講義がありました。改善に必要なのは、Will(新しいシステムに移行するための意志力)/Ideas(変革のためのコンセプトを提供するアイデア)/Execution(アイデアの実施)です!!講義は大変盛り上がり、私自身、解決策とはいえないまでも、今まで悩んできたことに少し光が射したような気持になりました。過去にこのような講義は聞いたことがなく、とても前向きな考え方と具体例が非常に参考になりました。

また、別日にグレートオーモンド小児病院のラボを見学させて戴きました。国は違えど、同じ検査技師!やっぱり、クロストリジウムは臭うよねーと「検査技師あるある」で盛り上がりました。PCRでの検査が充実しており、Realtime-PCRで多くの菌種を調べていることは新鮮でした。詳細はマニアックすぎるので、これくらいでやめておきます。

諸外国には微生物医師が存在し、感染管理をサポートしますが、日本では検査技師がその役割を担う部分も多くあります。日本の検査技師は微生物の検出から、疫学統計、感染管理業務まで幅広くこなしています。他の職種でも同じでしょう。諸外国では業務が細かく専門家に分かれていますが、日本ではそのような仕組みがありません。つまり、日本人は器用によく働いている!頑張っている!と実感しました。
 
   
国ごとに仕組みが異なり、それぞれに興味深い取り組みがなされています。英国の次は米国が見たいな・・・と思いながら帰国しました。知識が増え、視野が広がった今後、どのように活用していこうか、考えていこうと思います。コーディネートしてくださった土井さんを始め、通訳の方、受講生の皆様・・・楽しい研修をありがとうございました。毎日のお食事会も賑やかで楽しかったですね。また皆様に会える機会を楽しみにしています。