JICSA 特定非営利活動法人 日本感染管理支援協会 英国感染管理研修ツアー報告 l 2011-7-17
   
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 2011年7月17日~25日 ドイツ中材研修報告  

東京都立多摩総合医療センター 感染管理担当看護長
感染管理認定看護師 山佐 瞳

みなさま、こんにちは。 東京都立多摩総合医療センターで、感染管理を担当している山佐です。今回、土井英史先生が7月に企画された「ドイツ中材研修」に参加しました。その中で、学んだことなどをご紹介させていただきます。研修は平成23年7月17日~7月25日(7泊9日)で研修参加人数は、総勢23名(土井先生・通訳2名を含む)でした。研修内容・日程は下記の通りです。
 
主な研修内容
1日目 中材見学 導入・滅菌の基礎(洗浄・洗浄など)
2日目 包装について
3日目 器械メーカーの見学
4日目 滅菌の基礎(滅菌の原理など)
5日目 質管理とプロセスバリデーション
6日目 医療デバイスの処理・病院見学
 
 
1.研修に参加した動機
 私は、平成17年度より感染管理と中材を兼務することになりました。このときは、認定看護師 でもなく中材に必要な知識が不足しており、土井先生が講演される中材関係のセミナーに参加し知識を得ては業務改善に取り組んできました。
 平成22年度には病院も新しくなり、病院運営もPFI事業が取り入れられ、今までの中材運営とは異なることになりましたが、病院の代表として中材と関わっています。そこで、中材に関する業務内容や知識の理解が無ければ、協力企業の方々と協力してより良い中材運営を行うことはできないと考えています。昨年、土井先生がドイツに行かれるとの情報があり一緒に同行して、チュ-ビン大学病院の中材を見学させていただきました。その中材で今年は、本格的な研修を行うことを知り、ドイツの中材の実際を学習したいと思い研修に参加しました。

2.研修で学んだこと等
 研修の中から、驚いたことや学んだことなどをご紹介します。
 最初に驚いたことの1つは、ごみ箱を中材で洗浄しているということです。(ごみ箱だけでなく手指消毒剤のディスペンサーも中材で洗浄していました。)
 この病院では、すべてのごみ箱(同一規格)を中材で洗浄するそうです。ごみ箱専用の洗浄器もありました。さらに驚いたことは、滅菌物の配送システム(供給・回収)です。ここでは、供給も回収も同じコンテナが使用されています。滅菌物を供給するコンテナには、使用後の器材だけでなく、ごみの入ったごみ箱も回収され、ごみ回収センターを経由し中材に戻ってきます。そのため、コンテナを毎回洗浄するためにコンテナ専用の洗浄機が設置されていました。これらのコンテナシステムは、今から30年前にこの病院では確立していたそうです。(ビックリですよね。今でもこのようなシステムを持っている病院はない? 少ないのではないでしょうか?)
 
2つ目は、洗浄室には職員が1~2名しかいません。用手洗浄はごく一部のみで、あとはすべて機械による洗浄が行われています。洗浄しにくい器材も専用のコネクターが各種取り揃えられているため、殆どの器材が洗浄器で洗えるようになっています。中材で最も人員が多かったのは、組み立てコーナーでした。各自に机が準備されメンテナンスに必要な物品が準備されています。
 
3つ目は、バリデーションについてです。この病院では、いろんなバリデーションが行われていますが、その中の1つである滅菌パックの圧着度を測定する機械を見せてもらいました。1枚のパックから5片を切り取り(合計3枚15片)検査するそうです。切り取った15片を1片ずつ機械に取り付けボタンを押すと、紙側とシール側に引っ張られ測定結果は、直ちにコンピュータで表示されます。
 
4つ目は、Tracking & Traceability(追跡&追跡結果)に関することです。レーザーによるTracking & Traceabilityについては皆さんもご存じのことと思います。この病院では、レーザーシステムより数倍安価な「刻印によるシステム」が導入されています。
 
5つ目は、中材のことではありませんが病院を見学した際に、ベッドセンターを見せてもらいました。すべてのベッドがセンターに回収され洗浄・消毒後にメンテナンスされ、すぐに使用できるように整備されたベッドが部署に返却されます。
 たとえば、手術で入院した患者はベッドごと手術室に入室します。そのベッドはベッドセンターに返却され、きれいに洗浄・消毒・整備され手術室に戻ります。患者は手術後そのベッドで病室に帰ります。
 写真のようにベッドを持ち上げる装置が設置されており、その装置でベッドを持ち上げ、裏側も楽々に清掃ができるようになっています。(また、また、ビックリしました。)
 
6つ目は、座学の中で学んだことを、ご紹介します。講義は、サネッティーさんとコリーさんのご夫婦でした。
 この方々は、ドイツの中材学会だけでなく欧州各国の講師などをされている方々です。
 「用手洗浄と除染」という講義の中からまなんだことについてです。
皆さん、ご存知の通り洗浄なくして消毒も滅菌のあり得ないといわれるように洗浄は重要です。この病院では、機械洗浄が主ではありますが、どうしても用手洗浄を行うものもあるそうです。
 用手洗浄の結果と質を決めるものは「人的要因」であるため、用手洗浄のプロセスをバリデーションすることはできません。したがって、標準作業手順(SOP)を作成し、用手洗浄の際には必ず遵守しなければならないようになっているそうです。
 これは、誰が用手洗浄を行っても、同じように作業ができ、洗浄結果が同じようになるように標準作業手順(SOP)が作成されています。これは、洗浄作業に限らず、包装やパッキング時など、すべての作業手順が標準作業手順(SOP)として作成されており、誰にもわかるように記載され使用されています。

 次も洗浄に関することです。この病院の洗浄剤はアルカリ性洗浄剤が使用されています。そのため、すすぎの段階で必ず「中和剤」を使用する工程が組み込まれているそうです。
 当院でもアルカリ性洗浄剤を使用していますが、「中和」という工程はありません。そのため、すすぎの時間を通常より長くした方がよいと言われました。
 また、水の質も洗浄効果に大きく関与するため、自施設の水の質を理解し洗浄剤を選択することの重要性を学びました。洗浄が不十分な場合、残留汚染が腐食を更に悪化させることにつながるそうです。
 
     
 
3.終わりに
 6日間の研修も、あっという間に終わってしまいました。中材の仕事も奥が深くて、学べば学ぶほど、いろんな改善が必要であることがわかります。中材の洗浄・消毒・滅菌に関しては、感染管理の中でも重要な部分であると思います。
 多くの病院では、委託業者の方々が中材を担ってくださっていると思います。当院もそうです。業者任せにしないで、感染管理の1つととらえ、今後も委託業者の方々と意見交換を行いながら、より良い中材にしていきたいと考えています。
 来年も、このような研修が行われることを期待しつつ終わりにします。土井先生、ありがとうございました。