2010年度
英国感染管理研修に参加して
東京都立多摩総合医療センター
感染管理認定看護師 山佐 瞳
感染管理認定看護師 山佐 瞳
土井英史先生が開催している平成22年度の英国研修に参加をしました。3年前にも参加し今回2回目の参加です。その中で学んだ事・感じたことなどを報告させていただきます。
通称「イギリス」と言っていますが、イギリスはイングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの4つから構成される連合王国です。
今回の研修は、イングランドでの研修内容です。
<医療制度の違いから>
皆さんご存知の通り、英国は「ゆりかごから墓場まで」という福祉国家スローガンのもと、医療費は基本的にはすべて無料(一部有料)であり、税金で賄われています。
1948年(昭和23年)に、すべての人に医療サービスが供給できるよう国民医療サービス(National Hearth service:NHS)が設立されました。 国民は、NHSに所属する一般医(General Practitioners:GP)に、無料で診察を受けることができます。 GPは、自分が居住している場所によって決まっているため、イングランドでは居住場所を探す際の1つのポイントとしてGPのレベルを確認して決める人もいるとのことです。
病院の組織形態としては、「トラスト」という病院や地域の医療サービスの運営母体下にあります。そのため、病院経営資金は、このトラストから分配されます。病院の成績が良くないと配当金が少なくなるそうです。
また、その運営の中でびっくりした事がありました。それは中央材料滅菌室に関する事です。ここでは、トラスト内にある全ての病院の滅菌物を1つの病院が受け持って処理するそうです。今回、見学したロンドン大学病院の中央滅菌材料室では、同じトラスト内の滅菌物品すべてを処理していました。中材については後ほど、写真などを用いてご紹介します。
<英国の感染管理から>
英国では感染管理の重要な事項として「ハイ・インパクト・インターベンション」という影響力の大きい介入措置 (化学的根拠に基づいた簡潔なツールで、主要な医学的処置に関して臨床職員が、 日々実行しなければならない行為を補強し、病院関連感染の大幅な減少を図るもの )を、ケアバンドルを用い徹底したオーディットで実践していました。
ケアバンドルとは、RCTで有用性が認められた3~5の手法を、単独ではなく束ねて(Bundle)行うことで、最大限の効果を得ようというものです。IHI(米国医療保健改善協会)を中心に、医療の質確保のための手段として活用されている考え方です。米国では2003年頃から使われ始めています。英国は、High impact interventionの中の手法として、独自のケアバンドルが用いられています。その項目には、次の8項目があります。
1.中心静脈カテーテルケアバンドル
2.末梢静脈カニューラケアバンドル
3.腎臓透析カテーテルケアバンドル
4.手術部位感染の予防のためのケアバンドル
5.人工呼吸器装着患者(また気管切開患者)のためのケアバンドル
6.尿路感染ケアバンドル
7.クロストリジウム・デフィシルによるリスク軽減のためのケアバンドル
8.手指衛生のためのケアバンドル
中心静脈カテーテルケアの1つとして、英国・米国では、CVCライン挿入時の皮膚消毒には、・2%クロルヘキシジンとアルコール剤含有の消毒剤が使用されています。今回の研修時に紹介されたCVCラインの刺入部を保護する滅菌ドレッシング材は下記の写真です。フィルムの中に、2%クロルヘキシジンと70%イソプロピルアルコールの混合溶液がゲル状になって組み込まれています。このような製品が日本でも使用できるようになればよいのにと思いました。

<病院見学を通して>
病院見学は、グレートオーモンドストリート小児病院のICU・NICUとロンドン大学病院の感染症病棟・中央滅菌材料室を見学しました。
私は、どこの病院を見学しても一番気になるのが洗面台と手指消毒剤にどのような製品が使用されているかということです。英国では、セオリー通りの洗面台でした。手指消毒剤は、泡状のものや、形状が面白いものが使われており、つい手指消毒をしたくなるよう形をしています。(写真を参照)細部に当たりきめ細やかな配慮がされていると感じました。



次に、感染症患者の部屋にはどのような予防策が必要かという表示(青:空気感染予防策・白:飛沫感染予防策・黄色:接触予防策)がされていることです。これは、「だれもが・いつでも」予防策を理解し実践できるようになっており大変に良い方法だと思います。以前、米国に行ったときも同じように病室の入り口に表示がされていました。日本では、プライバシー保護という名のもとに表示をしない病院が多いのではないでしょうか。(もしかしたら自分の病院だけかもしれません)これでは、適切な予防策の対応が遅れがちになると思います。何か良い方法がないか模索中です。

ロンドン大学病院では、洗えるキーボードが使用されていました。すごいですね。キーボードが汚染するとランプが点灯して清掃時期を教えてくれるそうです。

キーボードは不特定多数の人が触るため、汚染度が高い場所ですよね。当院には洗えるキーボードはありませんので、キーボードを触った手は手指衛生を行えるような職員に育てることが重要であると考えています。
次に、必ず見学するのは中央滅菌材料室です。この部門も重要なところです。いくつか写真でご紹介します。
ロンドン大学病院では、最初にお話ししたように同じトラスト内にある施設の滅菌物を一手に引き受けています。これは、効率的な方法かもしれないと思いました。
中材は汚染物を取り扱うところなので、職員の安全を守ることは重要です。下の写真は、顔面を全て覆いつくせるマスクです。用手洗浄を行うときは、汚水が飛散する可能性が高いですよね。ロンドン大学病院の中材では、飛散した汚水で眼球粘膜を曝露しないように大きなマスクが準備されていました。

今回の中材見学の中で、すごいなーと思ったのはシーラの確認テストです。ロンドン大学病院では、毎日1回使用開始時にシーラが適切にパッキングできるか点検しているそうです。下の写真が点検時に使用するテストパックです。早速、このような製品が日本にあるか確認したところ、日本でも発売されているそうです。当院の中材でも使用できるよう働きかけていこうと考えています。Qualityの高い物品を提供するためにも必要なチェックだと思いました。

滅菌物の包装にも注意がはらわれています。重い器材を取り出すときに、包装した不織布が破損する可能性があります。そこで、そのようなことにならないよう、下面の不織布が破損しないように写真のような包装がされています。

<ナイチンゲールミュージアムの見学から>
看護師でナイチンゲールの事を知らない人はいないと思います。なんといっても、看護の基本である「看護覚え書」は、実に奥深い看護実践書だと考えています。私は、15年ほど前に「ナイチンゲールゆかりの地を訪ねて」という旅行をした事があります。その時に初めて、ナイチンゲールミュージアムの事を知りました。ミュージアムは、セント・トーマス病院の一角にあります。英国研修に参加するたびに、私はこのミュージアムに必ず足を運びます。
ミュージアムはリニューアルされていました。
ナイチンゲールは、看護覚え書や病院覚書などの中で、感染管理につながるいくつもの文章を書き残しています。100年以上も前に書かれた内容が、現在に通用するものと思います。特に、病院覚え書の中に書かれている「病院がそなえておくべき第一の必要条件は、病院は病人に害を与えないことである。」という文章が印象的です。
写真はミュージアムに掲載されていたナイチンゲール病棟の昔(写真 1 )と現在(写真 2 )です。写真 3 は15年前に実際に見たナイチンゲール病棟の入口の写真です。
<セント・トーマス病院>

<ナイチンゲールミュージアム入口>

写真 1

写真 2

写真 3

<おわりに>
私は、毎年海外研修に参加することにしています。今年は、英国研修に参加しました。これからドイツの病院見学に参加してきます。
他の国を見ることで、自部署の良いところや課題などが、いままでとは違った形で見えてきます。感染管理に興味をお持ちのみなさん、ぜひ、海外研修に参加されてはどうでしょうか? とても楽しい研修が味わえ、刺激を受けることができると思います。