2007年度
米国感染管理研修2007に参加して
三重大学医学部附属病院 感染制御部 田辺正樹
2007年11月、Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology (APIC) の元会長でThe Queen's Medical CenterのICPであるSusan SlavishさんとWilcox Memorial HospitalのICPであるJudith Lansonさんのコーディネートによる米国感染管理研修に参加しましたので研修の感想を報告させていただきます。
研修の参加者は、医師4名、看護師9名(ICN 4名)、病院事務4名、医療関連企業の方2名の計19名でした。今回の研修では大学病院の事務の方が4名参加されたこと、またICNとして活躍されている看護師さんがたくさん参加されたことが非常に刺激的でした(写真1:集合写真)。

このような研修に事務の方が実際に参加され、感染管理の大切さを理解していただくことは病院にとって大変有益であると思いました。
研修は午前中が講義、午後は病院ラウンドの形で3日間にわたって行われました。感染症内科の医師より抗生物質の耐性について、またICPより中心静脈カテーテル関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、手術部位感染について、他、施設管理、従業員保健などの講義が行われました。
中心静脈カテーテル関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、手術部位感染の予防については、最善のケアをまとめて行う“ケアバンドル”という取り組みを推奨していました(詳細はJICSAホームページの情報発信をご参照下さい)。
例えば、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防の場合、
・ベッドの頭位置を30度から45度に挙上する
・毎日「鎮静の休止」を行い、抜管できるか状態か評価する
・消化性潰瘍を予防する
・(禁忌でない場合)深部静脈血栓(DVT)を予防する
・4時間ごとに口腔ケアを行う
がバンドルの構成要素になります。
エビデンスを勉強する、あるいは知識としてもつことがゴールであれば、この内容を病院スタッフへ教えるだけで良いですが、感染管理のゴールは感染率を下げることであり、その目標を達成するためにどうすれば良いかということが重要になってきます。講義の中でどのようにすれば成功するか、その秘訣についても教えていただきました。(下記は講義内容を抜粋したものです)。
・バンドルを実践するにあたり、これまでのサーベイランスデータから自施設のVAP率を知る。
・人工呼吸器ケアの担当者を特定し、医師・看護師の支援を得る。
・スタッフを改善するために病院上層部の支援を要請する。
・ケアバンドルを開始にあたり、まず20名程度を無作為に抽出しバンドル対策を実施
する。その際、バンドルの遵守は100%になるようにする。
・次に1つのICUにて全勤務シフトで人工呼吸器装着患者全員を対象に行う。その際、バンドル対策の完全順守を目指す。
・この取り組みにて改善が見られたかどうかを評価し、スタッフに結果をフィードバックする。
・現実的で実現可能な目標(開始後6か月でVAP率を50%減少させる、95%以上の遵守率を目指すなど)を設定する。
この人工呼吸器関連肺炎の講義をしていただいたICPのJudithさんは、以前ロサンゼルスの病院に勤務していましたが、数年前に故郷のハワイに帰って来ました。新しい勤務先のWilcox Memorial Hospitalで、VAPが高率であったため介入を行い改善したと話をしていました。
VAP1つを例にとっても、各病院での取り組みには温度差があるのではないかと思います。ケアバンドルのような知識がないことが問題であれば職員への啓蒙が必要になりますし、知識はあってもそれを実践できていないのであれば100%実践できるように遵守率を出すことが重要になってきます。遵守率のように、すべきことが適確にできているかどうかを相互にチェックするというのは日本の文化にはあまり合わないかもしれませんが、 “きちんとやってくださいね” “きちんとやっていますよ”というような慣れ合いの関係ではなく、遵守率を出していくことが今後の日本の感染管理には重要ではないかと感じました。
病院ラウンドでまず驚いたのは、新型インフルエンザやテロなどの災害が発生した際に使用するコマンドセンターが設置されていることでした。The Queen's Medical Centerはハワイだけなく、ハワイ周辺の小さな島々の中核となる医療機関でもあるため、このようなコマンドセンターも必要なのだろうとは思いながらも、日本では大学病院クラスの大病院であっても災害用にコマンドセンターを設置している施設は少ないのではないのでしょうか? 現在の日本は医師、看護師不足で日常診療ですら大変な状況ですが、大きな視点でとらえ、災害時の対応を組織横断的に行えるようなシステムづくりをもっと真剣に考えなければならないと感じました。
The Queen's Medical Centerは505床の急性期ベッド、28床の亜急性期ベッドをもつ総合病院で従業員は3000人以上います。古い建物なのですが、中は改装されており非常にきれいな病院でした。日本でも徐々に増えてきているかもしれませんが、外来部門として"Same Day Surgery Center"と呼ばれる日帰り手術を行う部門(写真2A)や"Outpatient Oncology"という外来化学療法部門がありました(写真2B)。

日本ではよく問題にあがる廃棄物処理ですが、アメリカは非常にシンプルです。各個室に一般のゴミ入れがあります。日本のように“燃えるゴミ”“燃えないゴミ”といった区別はありません。また各部屋の壁に鋭利物を捨てるボックスが備え付けてあります(写真3A)。
もし多量に感染性廃棄物が出る時はハザードボックスを持ってきて使用します(写真3B)。
このハザードボックスは病棟内の一時保管庫で保管され、その後、病院外に設置されている大きなハザードボックスに捨てられます(写真3C)。アメリカと日本では法整備が異なるため、アメリカがこうなっているからと言っても日本では通用しませんが、簡単で良いシステムだと思いました。



(写真6)


(写真8)

(写真9)

(写真10)

他に私が関心を持ったこととしては、ERの外にシャワーが設置されていたこと、
(写真11)

(写真12)


(図14:The Queen's Medical Centerからの眺め)
